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痛みに反して血は出ない


春の平日、カーテンの隙間から滲んでいる真昼の白けた光があまりにけだるくて
それと一緒になまぬるい湿った空気がやってきて身体を撫でまわしている
平熱の肌が汗ばんできて、口元まで引き上げたデュベットとへばりついて気持ち悪い

ぬるくなった血が凝固して身体が重い
だるいし何もおもしろくないしやることもないので台所から包丁を持ってきた
なかなかの重みがあって手首がことばで表現するのも忌々しく感じられる
本当にだるくなってきた
とりあえず左の手首をテーブルに置いて包丁を突き立ててみた
鋭い刃がやわらかな皮膚を突き抜けて、筋肉の繊維を何百本か素早くちぎった
大きな魚をさばくときに骨を断つ音と同じバキッという音がして軟骨が切れた

痛みに反して血は出ない

おもしろいので刺さったままの包丁を身体のラインに沿って鎖骨あたりまで一気に引っ張りあげた
大きな裂け目ができて張力を失った皮膚がべろりとピンク色の裏側を見せて、ぬるぬるした脂肪にまみれた筋肉が剥き出しになった

俺は今、半分裏返しだ
腐ったような黄色の分泌液があふれてきて、たらたら糸を引きながら床に落ちていく
ありえない音量でEARのData Rapeが鳴り響いていて
耳から三半規管にクレンザーを注ぎ込まれて冷たい金属の棒で攪拌されてるみたいだ

もうやめて/もっとして
さよならみんな/こんにちはおれ